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はい、と、言うわけで唐突にイタチ君家の家庭訪問でーす。 「ごめんくださーい。」 はーい、と中からすぐに女性の声がした。そしてやってきたのはなかなか美人な奥さんだった。イタチ君の母上さんかね。 「こんにちは、はたけカカシです。」 奥さんは俺の名前にはっとしたようだった。え、イタチ君俺のことどんな風に家族に話してんの?俺、一応君の上司だよね? 「あの、イタチ君のことで少々お話があると連絡したはずなんですが。」 「イタチ、ではあなたが暗部の、」 母親が驚いている。まあ、そうだねえ、確かに20代で副総隊長になった奴はいないとか言われてるし、若すぎるとか思われてるのかもなあ。 「困ったな、イタチ君、連絡してなかったのかな。今日ご両親に会いに行くと伝えてほしいと言ってたんですが。」 「そうでしたか、帰ったらイタチにきつく言っておきます。」 その言葉にイタチがまだこの母親にとっては子どものように扱われているんだなあ、と少し感慨深いものを見るように思った。とと、今は家庭訪問なんだった。 「うーん、となると、フガクさんはやはりご不在ですか。」 「はい、警備の任に就いています。まだしばらくかかると思いますが。」 「困りましたねえ。俺もそれなりに忙しい身でして、今日を逃したら日中に来訪できるの数ヶ月後なんですよ。フガクさんが警備の任に就いているのはどの辺りか見当つかないですか?」 「仕事の内容は家族と言えど口外はできませんし私は知りません。それでも特別な事情があれば警務部隊の本部に行けば教えてもらえると思います。」 「そうですか、ありがとうございます。そちらに行ってみます。ところでお母さん、あなたイタチ君をどう思います?」 唐突すぎる質問に母親は口を噤んで考え込んでしまった。そしてしばらく逡巡した後、静かに笑んで言った。 「あの子は私の自慢の息子です。」 「そうですか。」 俺も微笑み返した。 「急にすいませんでした。失礼しました。」 「あの、」 「はい?」 「あまりこの地区にはいらっしゃらない方がいいです。」 先ほどまでの笑みはなりを潜め、今度は暗く、悲しそうな顔でそう言うと、お母さんは頭を下げた。 警務部隊の本部はすぐに見つかった。居住区の中心部にあるのだ。これで見つけられなかったらよほどの方向音痴だ。 「すいません、うちはフガクさんいらっしゃいます?」 突然やってきた一族以外の男に警戒心を露わにした受付の人間が睨んでくる。うわ、怖いわあ。うちは一族、噂に違わず結束力の硬いことで。 「失礼ですがどちらさまですか?」 「うちはフガクさんの息子のイタチ君の職場の上司です。ちょっとお話したいことがあるんですけど。」 「そうですか。お名前は?」 「はたけカカシです。」 受付の人間はものすごい勢いで立ち上がって事務室の奥に引っ込んでしまった。 「イタチのことで話しがあるとか。」 真ん中で髪を分けている男が口を開いた。この人がフガクさんか。なるほど、威厳のある人だな。 「あなたがフガクさんですね。すみませんが二人だけで話しをさせていただけませんか。」 「この者たちがいるとまずいことでもあるんですか?」 周りにいる同じような年代の人たちはてこでも動きそうにない。こういう時の結束力とか連帯感って言うのは厄介なもんだなあ。 「イタチ君の上司のはたけカカシです。今日は部下のうちはイタチ君について少々お話したいことがあって参りました。」 言えば男たちは舌打ちした。やっぱ、歓迎されてないなあ。 「イタチの何を話せと?」 「いえ、大したことではありません。イタチ君のこと、ちゃんと理解してあげてます?暗部と言えども中身は人間です。イタチ君が未発達と言うわけではありませんが、人格形成において身内の支えは最も大切なことの一つです。自分で言うのもなんですがこの部隊はやはり特殊でして、かなり汚い仕事も率先してやらなくてはなりません。イタチ君はまだ新人ですのでその辺りのメンタル面での補強が充分かどうかの見極めが重要なんです。」 俺はそこで一旦言葉を切った。そしてフガクの顔を見る。表情の変化で相手の心の動きを見るのだ。 「そこで父親であるフガクさんにイタチ君のことで何か悩みや相談なんかがあればお伺いしたいと思ったんですけど。」 言えばフガクはまっすぐに俺を見て言った。 「何もないです。あれは私の息子ですから。」 「本当に何も迷いはないんですか?俺はこの部隊にいる年月がそれなりにあるのでここで狂っていった者、無惨に散っていった者を多く知っています。生半可な気持ちでできる職業ではありません。少しでも何か変化やその兆しがあればすぐに何らかの対策を取った方がいいんです。なまじイタチ君は類い希なる才能がある。それが暴発するようなことになれば、」 「くどい、何もないと言っているでしょう。お引き取りください。」 フガクはもう言うことはないと言わんばかりに背中を向けてしまった。そして追従していた者達と共に元来た方向へと姿を消してしまった。 「おいっ、」 思考の途中で呼び止められて俺は顔を向けた。黒い髪に黒い瞳、おまけに写真眼まで開眼させている男が3人。なんだろう? 「何か?」 「こそ泥め。」 何を言われたのか解らなかった。 「オビトの目を盗みやがって、何が白い牙だ。あの男の息子なだけはある。仲間を助けた振りしてその目を奪ったんだろうっ。」 男たちは怒りに、憎しみに顔を歪ませている。よくよく見てみれば年齢は俺とそう変わらない。つまりオビトと同じような年齢。オビトの友達とかだったのかな? 「逃げるのかっ、その地位も写輪眼がなければ手に入らなかったくせにっ。」 俺はため息を吐いた。 「卑怯者っ」 「臆病者っ」 「同胞殺しっ」 うん、どれも本当の俺だ。俺は色々背負って生きてる。今更あがいたりしないさ。 |